世界を魅了するガラス作品はいかにして生まれたのか。
ガラス芸術の本場ベネチアを唸らせた技術と装飾
西洋と日本の文化を融合させた高い精神性
ガラス作品で問いかける「日本再生の鍵」
ガラス工芸作家 黒木国昭を育んだものとは何か。
第一部では、その生い立ちからガラスとの強烈な出合い、そして修業時代を丹念に振り返り、世界が認める技術がどのように 確立されてきたかが語られています。
第二部では、作家として活動するなかで自ら実践してきた哲学、真摯に向き合っ てきた日本の伝統文化に照らし見る、現代日本への提言をまとめています。
ガラスに向き合い、ガラスとともに駆け抜けた50年――先達に学び、自己を徹底して分析し磨き上げてきた「現代の名 工」が発信する、現代若者へのメッセージでもあります。
季刊『道』の連載に書き下ろしを加え、60ページにわたる作品集とともにお届けします。
ガラスでできているということは、千数百度という温度のなかで、一瞬で色を着け形づくっていくということだ。
制作は、20名ほどの弟子たちと共同していっぺんにつくりあげるという。少しでも狂ったらおしまいとなる。
だから、そのために10日ほど前から毎日、詳細な打ち合わせをするのだという。
その上での一瞬の作業なのだ。
そこには全員の一体感とスピードが求められる。そしてその裏には、社長であり、職人であり、作家である、黒木氏の生き様がある。
なぜこのような美しく深遠な世界をガラスで表現できたのか。
この境地を確立した黒木氏の足跡をたどることはまた、いかに生きるべきかの学びとなることは間違いない。
時間というものの速さを感じています。
その間、今日に至るまで休みなく働き、西洋の素材「ガラス」と、日本の伝統美や歴史文化の融合ということに人生を注いできました。
作り上げた作品は、日本だけでなく世界でも広く認められてきました。
一方、ガラス工芸作家として感性を磨き高めるために向き合ってきた日本の装飾文化、伝統文化、歴史、環境、風土というものが、
現代日本においてあまりにもおざなりにされていることに危機感を覚えています。
私の作品に感動してくださる皆さんに、私が作品一つひとつに込めた精神性を読み取りご理解いただくことで、
日本人として大切なものは何かを再認識していただきたい。
いつしか、そのような思いが湧き上がってまいりました。
この本は、そのような思いで私が季刊『道』の連載で語ってきたことと、書き下ろしを加え、一つにまとめたものです。
作品を見た感動と、「作家・黒木国昭」がガラスと向き合うなかで何を考えてきたか――。
この二つが世の中を良い方向に変える一助となればと願っております。
(「はじめに」より)
第一部 先達に学び自己を磨く―― ガラスと歩んだ五十年
ガラスの聖地を圧倒した〝ガラス工芸作家・黒木国昭〟
ハングリー精神を養った少年時代
ガラスとの強烈な出合い
先達の仕事に学ぶ
実践の哲学「分析とリサーチ」
西洋のガラス」と「東洋の自分」その葛藤
現代日本の問題に対する〝処方箋〟
床の間文化」――現代の生活文化を見直す
〝匠集団〟こそ日本再生の鍵
子供たちに地域での教育を
綾切子に込めた照葉樹林を巡る文化
一作家として、日本にできること
第二部 文化を生き抜く力に―― 黒木国昭の哲学
日本人であることを鍛える
日本人をしっかり身に付ける/感性を引き出すのは家庭の役割
今に安心せず成長をめざす
現状に合わない制度 足りないリサーチ/文化という流れのなかで考える
育むべき「どう生きるか」という思い
〝職〟を意識せず子供が育つ時代のなかで
家庭・学校・地域のどこでも子供を真ん中に考えていく
生まれ育った故郷のために、という思い
世界の中で日本人としての役目を果たすために
地理的状況から生まれる日本の問題点/自由の裏にある秩序
まず、「日本人たれ」/気づくことから始まる
作家の仕事とは「作品」を生み出す人の輪・環境をつくること
弟子の力を引き出す/作品に千年のエネルギーを持たせるために
ガラスに育てられ、ガラスで恩を返す
ガラスが師 ガラスの美しさが私を育てる/生かされている恩を何で返すのか
人生をまっとうするために職を真剣に捉える
◎黒木国昭 ガラス工芸作家 くろき くにあき
1945年宮崎県生まれ。県立小林高校卒業と同時に、ガラス会社に就職し、ガラスの道に入る。
1974年より創作活動を開始し、1977年国家ガラス技能一級を取得。1984年に独立。
1989年グラスアート宮崎綾工房を創設し、ガラス工芸では初めての国の卓越技能者「現代の名工」を受賞。西洋のガラスの素材に日本の装飾美・琳派などを融合させて、まったく新しい世界を生み出した。
国内外で展覧会を展開するなど幅広く活躍中。
『道』164号 対談「日本の心と歴史文化をガラスアートに込めて時代を革新する伝統の継承」 『道』165号~ 連載「文化を生き抜く力に」
>>>公式サイトへ [グラスアート宮崎]